デザイン全般について過去のシンポジウム開催時に寄せられた質問の中から, お答えできるものを中垣なりにまとめてみました.
Q デザインの文化レベルを上げるためには, 例えばモダニズムのような何か大きな一つの思想が必要だとは思いますが, そのように何かの土台がなければ, デザイナーの主観的な好き嫌いの問題に成り下がってしまうように感じます. その点についてどうお考えですか?
A その通りです. その手掛かりを探すのが, ミームデザイン学校の使命だと思っています. 現代のデザイン, 特にグラフィック・デザインの分野では, 現代の科学や思想を充分に反映しているとは思えません. 他のジャンル, 例えば建築やインダストリアル・デザインの分野では, もっと現代のテクノロジーを取り入れているのではないでしょうか?その意味では, 視覚情報系のデザインはやや孤立し, 他の分野より立ち後れているようにも思えます. もっと思想や科学を反映したデザインが必要であるということは言うまでもないことだと思っています.
Q Designers republicのように, グリッドシステムの解体(逸脱?)されたレイアウトや本のつくりについて, 文字の扱い方をどのようにお考えですか?
A デザインする上で伝統的な手法も重要です. しかし, 伝統を解体する事も大切な事だと思います. Designers Republicの活動はまさに伝統を解体する作業だと思います. (古平氏もそれに近いかもしれません)その中にも将来に何かの可能性を感じるものも有るのではないでしょうか?それが伝統となるか否かはみなさんが決めてゆくものです. 生物界の突然変異は, 異形として排除される運命にあるそうですが, 突然変異は進化にもなりうると思います. ご質問のグリッドシステムの解体は, 積極的にそのシステムから離れることに意味があるのではないでしょうか. 時には暴力的に.
Q デザインの概念がより広範に拡張しているのを近年強く感じます. テレビでも「デザイン」をとりあげる番組が増えていますが, 表層的なものが多いように思えます. デザイナーのみならず, デザインを「受信」する側の教育(?)プログラムなども, 今後の日本のデザインのレベルを底上げ・充実させる上で重要ではないでしょうか?
A デザインの発信者と受信者のバランスがとれてこそ, 成熟したデザインの社会が達成できるのではないでしょうか?それには幼少期からのより質の高い環境づくりが大切だと思います. 今日の大人達は余りにもそれに無神経ですし, その人たちがデザインの質を判断できる力量を持っていないのですから.
Q 表紙を作るときの基本ルールのようなものはありますか?
A 本文が縦組の場合は基本的に表紙も縦組になりますが, 近年は表紙は独立したものとして考えるデザイナーも多いようです. この背景には, 多くの広告出身デザイナーの方々がブックデザインの分野に進出していることや, 書店における表紙の位置付けが「看板」「ポスター」のように解釈されていることも関係していると思われます.
Q 本の内容に合った表紙のデザインに必ずするという自分の中でのルールはありますか?
A 自分のルールはありますか? 一言では説明しきれません. デザイナーによってそれぞれ違っていると思いますが, ミームデザイン学校では何人かの優秀な講師が, 自分なりのルールをお伝えする事になるのでしょう.
Q 目立つ(書店で手にとってもらえる)デザインはどのようなものですか?
A (中垣)「目立つとは, その環境の中では異形である事です. 良い意味でも, 悪い意味でも. 良い例を1つ挙げます. エディション・ズールカンプ(Suhrkamp)の書棚を見たことはありますか?あれは1冊ごとの美しさももちろん素晴らしいものですが, 書棚に整然と100冊が並んだ時の虹色は圧巻です. 平凡社ライブラリーなどは, 平置きで目立つかどうかではなく, 100冊が並んだ時の体系だった美しさも意識して取り組んでいるものです. 」
>> Suhrkamp社ウェブサイト
(有山氏)「書店で目立つかどうかではなく, 自分の家の本棚においてもらったときにどのような佇まいを見せるか, の方を意識してデザインしています」
Q 単行本につけられている帯の役割はどのようなものですか?
A 日独の相違点を例に挙げて考えてみましょう. ドイツではあくまで本表紙が「本表紙」として認識されており, 本表紙から判断できない書籍の概略をカバーに記載しています. 日本ではそのカバーにさらに帯をかけ, 「概略の概略」を記載していることになりますが, 内容をわかりやすく要約しているため, 書店で書籍を選ぶ際の判断材料になるとされています.
ドイツにおいても「書店に赴き書籍を選ぶ」という環境は変わりませんが, 日本では幅広い客層が書店に赴くのに対し, ドイツではある程度知的レベルの高い層が書店を利用します. また, 日本で週刊誌などは書店で購入できますが, ドイツでは「週刊誌, 雑誌, 漫画を販売するKIOSK」「書籍を販売する書店」とに分かれています.
ドイツでは, 日本のメディアと違い, 広告目的のためではなく媒体編集者の判断で書籍が選ばれますが, テレビや新聞で書籍が議論の素材となることが多く, 書店における情報以外にも判断材料が豊富にあります. また, 質の高い書店員が多いため, 書店のPOPなどに頼らなくても目的の書籍にたどり着けます.
以上, ここでは挙げきれない文化的差異に起因する部分があるため, 一言で断言するのは難しい所ですが, 日本では, より幅広い読者層の注意を喚起するため, 書籍の内容をわかりやすく説明する「帯」が大切になっているのかもしれません.
Q 本が売れていないと良くいわれます. 製作を人件費の安い海外に委託しているという話も聞きます. このままでは, 安い制作費・短納期で受注せざるを得ず, どんどん装丁の品質が下がる, もしくは二極化してゆくと思います. 私たちデザイナーにできることは何でしょうか?
A 本の需要と供給のバランスがとれていないのではないでしょうか?同じような内容で粗製乱造された本が多すぎると思いませんか? 私たちデザイナーにできることは, 質の高い本を作り続ける以外無いのではないでしょうか? 将来どのような形で本が残るのかは私たちも充分考えていかなければならない重要なテーマでもあるのです.
また, デザイン事務所を経営する立場として, 制作費・納期の問題は重く受け止めております. 少しでもデザイナーに経済的・時間的な余裕ができるように顧客に対して積極的に交渉しています. 余裕があってこそ, 旅や美術館巡りなど, 新しいインスピレーションを得るための物理的・精神的な旅をすることができますから. デザイナーは文化を生み出す職業であって, 使い捨ての労働力ではありません.
そして, これは編集者の問題でもあります. 編集者はデザイナーと同様, 文化を生み出すことで社会に奉仕すべき立場にあります. 時間やお金がない事を理由にデザイナーを使い倒すのでは無く, 共に文化を育んでいく姿勢に立っていただくことを強く望んでおります.
Q 安い制作費・短納期で受注せざるを得ない現状では, デザインにおけるスピードと効率が求められると思います. 「効率化」という点で気をつけていることはありますか?
A スピードと効率は, 結果のイメージをどれだけ早く掴めるかで決まります. 結果のイメージを掴むためには経験も重要な要素となります. デザインにおけるスピードと効率が求められるという点は, 数十年前と変わりません. 若いころの週刊朝日特集ページでは, 前日迄三日三晩徹夜で入稿したものが, その日の午後には駅のキヨスクに並んでいました. とにかく一つの仕事のことだけ考えていたのでは間に合いませんので, 手を動かしながら次の仕事の案を練る, という感じで, まさに全身をフル稼動していましたね. これはプロのデザイナーとして当然要求されるものです.
Q デザインするときに, 知識や技術, 自身の意識等, 書籍と雑誌では何か違いはありますか?
A 書籍はある程度, 長期間耐えられる内容であるべきです. それに対し, 雑誌はその時その時を切る役割があるのです. ですから, 雑誌は常に新しい発見や古いものへの再評価の記事を提供する役割があります. それを成熟させるのが書籍なのだと思っております.
Q アイデアのストック方法について. 色々なものを見ても, ここぞというときに出てきません. うまく自分の中に蓄積して, 必要な時に引き出すために普段心掛けていること等はありますか?
A うまく自分がストックを引きだせないのは, ストックした知識が肉体化されていないからではないでしょうか. 血肉となり蓄積されるまで, 無駄と思えても続けてゆくことですね. 何時か自然と自分のものになります. あなた達はまだ若いのですよ.
Q 講談社現代新書のリニューアルについてどう思われますか?
A リニューアル後の新しいデザインは好きではありません. 以前のデザインは文化でした. 残念です. 無責任なデザインの見本のようですね.
Q MACで簡単にデザインができる時代とおっしゃっていましたが, 美大に行かず, デザインを志す人たちについてどう思われますか?また, 美大卒のデザイン, そうでない人のデザインに違いを感じることはありますか?
A 美大を出たからといって優れたデザインができるとは思えません. 何を勉強したかで決まるのです. 私は, デザインには遊び心が必要だと感じています. 子どもの時から創造力のある遊びができていたかが問題なのです. 創造力を伸ばす教育が必要です.
Q 活字とDTPの決定的な違いは何ですか?
A 活字や写植はソフト自体にルールが存在しましたし, 一定の秩序を保っていました. そうしなければならない事情があったのですが, ここでは割愛します. その分, 自由の利かないものでしたが, DTPはそれらの秩序から解放されました. しかし, 美しいものには, なぜその様になったのか, それなりの秩序が存在します. その秩序が無いとただのデタラメと言えるのではないでしょうか?「秩序」は自然の法則が良き教師になると思いますよ.
Q きれいな文字組はどのようにして収得しましたか?
A きれいな文字組は, 主に私の師, 杉浦康平氏に教えていただきました. それを又ミームデザイン学校で伝えていきたいのです.
Q 最近, フリーペーパーが多く出回るようになりましたが, これについてどうお考えですか?
A 金儲けだけのフリーペーパーはチラシと同じものでしょう. ただし, 有山氏が現在作っている北九州市のフリーペーパーは, 自治体の活動としても意味があるのではないでしょうか?
Q 自分らしいデザインとは何ですか?
A 自分らしいデザインは, 他人が持っていない自分だけの世界があるかということです. 羽良多平吉氏の美しい色彩などはなかなか真似のできるものではありませんね.
Q 「商業的に売れる」ことを, デザインする上でどれくらい重視していますか?
A 商品なのでもちろん売れることも重要ではありますが, マーケティング主導のデザインには異論があります.
Q 中垣さん, なぜ人のために何かをしようと思うのですか?優しく慣れるのはなぜですか?
A 長いことデザインの仕事を続けられた恩返しに, 若い人たちに何か渡せるものはないかと思っているからです. そして死ぬ前に明るい未来が見たいものだ, とも思っているのです. 私が開校しようと思っているデザイン学校も次の世代の人たちが続けてくれる事を願っています. デザイナーの地位がもっと社会で認めてもらえるように.
Q デザイナーに女性が増えています. 男性社長+全員女性スタッフ, という会社も少なくありません. これは今後のデザインのあり方, 質に関係してくると思いますか?
A 有山氏の事務所はまさに男性社長+全員女性スタッフですね. 中垣事務所は半々です. デザイナーに女性が増えてきたのは, 「デザイナーは割に合わない」としてはじめから選択肢から外す男性が増えている現状があるのではないでしょうか?デザインの質に関しては男女関係ないですね. 問題は, 何かと厳しい労働環境ですので, 女性が出産等人生の転機を迎えた際に仕事を継続しにくい, ということが1つあります. しかし, 少人数のデザイン事務所でも, 補助金等を利用して託児所の設置を計画したり, 男性の育児休業を認めるところが出てきています. デザイナーに女性が増えてきたことで逆に男女共に労働環境の改善が進むことも考えられます.
Q なぜ明朝なのか?
A 明朝体には歴史があり, 文字としての機能を考えた時に, 明朝体は読みやすいからではないでしょうか?ゴシック体は主に広告の為に作られた文字で, 見出しなどのディスプレイタイプと呼ばれています. 明朝体は欧文のローマン体, ゴシック体は欧文のサンセリフ体に近く, それぞれの書体の発展は同じような位置にあると思われます. 但し, 今日では, ゴシック体もサンセリフ体も美しいデザインのものができましたので, 充分本文に使っても読みやすく, 一概に広告用とは言えなくなりました.
Q 私自身も, ちょっとした調べものをする際にはWEBを使ってしまいます. 本が売れなくなる原因の一端にはWEBの存在もあるかと思いますが, 今後WEBと本はどのような形で共存してゆくのでしょうか?また, その中ではそのような本が生き残るのでしょうか?
A WEBと本の決定的な違い, それは情報空間の違いです. 本は, 一冊を読み通すことで体系だった知識を得ることができますが, 有限の世界です. WEBは無限の世界ですが, 1つのウェブサイトで本のように体系だった知識を得ることは難しいでしょう. WEBは目まぐるしい進化の過程にありますので, 全てのウェブサイトがそうだというわけではありません. このような両者の違いを見ると, 生き残る書籍に求められる内容と完成度が見えてくるのではないでしょうか.
Q 今の若手デザイナーに足りないものとは何でしょうか?
A お金, これも大切. 私の場合をお話しましょう. 自分が自立するまで余り焦りませんでした. 学校を卒業して, 某大手代理店に就職したのですが, 杉浦先生からのお誘いもあったため, 10日でそこを辞めました. そして杉浦先生の弟子入りをし, 10年間無給で寝食を共にしました. (無給の理由は, 財布が杉浦先生と僕と一緒だったためです)その後独立しましたが, 鈴木一誌氏も僕も先生からは無限の教えを戴いているのだと思っておりますし, 今日の私があるのも先生のおかげです. そして先生に巡り合ったのは僕の運命であり, 幸いでありました. 皆さんにも, 良き師と巡り合うことがいかに大切かをミームデザイン学校で学んでほしいのです.
Q 私は今学生ですが, MACをいじってるとなんとなくそれらしくでき上がってしまうのが恐ろしく感じられます. それを打破したいのですが, どうしたら良いのでしょうか?
A ミームデザイン学校で教えます. デザインの基本を身につけることです.
Q 低コストで質のよいデザインをするには, たくさんの時間と人員を要すると思うのですが, 人と人との関係性だけで解決できるのでしょうか?
A 時間と人員を要すると低コストにはなりません. なるべく少人数で, なるべく短時間にコストと質を満たすデザインをすることです.
Q 「デザインは広告が一番」みたいな風潮についてのお考えをお聞きしたいと思います.
A それは, デザインの良否が経済的価値として計られているからでしょう. デザインは文化を担っているのです. しかし, スポーツ選手や芸人が文化人より上と考えている人たちも多くいるのは残念なことです.
Q 書体設計や用紙開発, 印刷技術について, デザイナーが提言できることはありますか?
A 提言できるとは思いますが, それなりの勉強をしている人はごく僅かでしょう. それを研究するのもミームデザイン学校の重要な課題と考えています.
MeMe Design School 2010