09公開講座「デザイナーによるセルフパブリッシング」レポート


自ら出版社「牛若丸」を運営するデザイナーの松田行正氏。「book shop M」を立ち上げて販売まで行なうデザイナーの町口覚氏。また自身で企画制作をしながら流通させる「ユトレヒト」代表の江口宏志氏の三者を迎え、公開講座を開催しました。各パネリストによる簡単なプレゼンテーションの後、活動を始めた動機、現状、そして「本」の魅力やセルフパブリッシングの可能性について、司会のテザインジャーナリスト・藤崎圭一郎氏の進行により、ディスカッションを行いました。客席にも、セルフパブリッシングを実践している方々が多数来場し、質疑応答は予定時間をオーバーするほど、活発な意見交換の場となりました。

日時|2009年10月31日(土)18:30?20:30
会場|青山ブックセンター本店内・カルチャーサロン青山
講師|松田行正 (グラフィックデザイナー/牛若丸出版主宰)町口覚 (アートディレクター/マッチアンドカンパニー主宰)江口宏志 (Utrecht[ユトレヒト]代表)   司会| 藤崎圭一郎 (デザインジャーナリスト)


松田行正:グラフィックデザイナー/牛若丸出版主宰:1948年静岡県生まれ。「シンプル&コンプレックス=単純であることは複雑であることと矛盾しない」をモットーに、書籍の装丁や雑誌のエディトリアルデザイン、書籍の執筆・編集などを手がけている。2006年には自身の著書『眼の冒険』のブックデザインで講談社出版文化賞を受賞。近著には『はじまりの物語 デザインの視線』(2007)、『デザイナーズカラーチャート +designing』(2008)、『和力 日本を象るfor warming Japan』(NTT出版)、『デザイナーズカラーリングブック基本色+配色見本帖+designing』 (毎日コミュニケーションズ)などがある。http://www.matzda.co.jp/
牛若丸出版: 1985年にスタート。独特の視点から設定されたテーマを偏執的に掘り下げる内容と、その内容をオブジェとして成立させる造本設計が特徴だ。これまで20冊以上の書籍が発行され、『円と四角』(松田行正/構成 向井周太郎/解説)、『ZERRO』(松田行正/著)、『INFRAMINCE』(松田行正/編 港千尋/文)、『×バツ BATZ』、『et(エ)──128件の記号事件ファイル』等がある。


町口?覚アートディレクター/マッチアンドカンパニー主宰:1971年東京都生まれ。95年、同世代の写真家40人の作品を収録した写真集『40+1 PHOTOGRAPHERS PIN-UP』を製作発表して以来、日本の先鋭的な写真家たちの写真集をはじめ、映画・演劇のグラフィックデザイン、書籍の装丁の仕事を数多く手掛ける。05年、写真集レーベル「M」を立ち上げ、発行・発売元となる。常に表現者たちと徹底的に向き合い、独自の姿勢で写真集づくりに取り組み、「日本の写真集を、全世界へきっちりと所属させるため」写真集販売Webサイト「bookshop M」を世界密着で運営している。世界最大規模の写真のアートフェアである「Paris Photo 2009」に、日本のパブリッシャーとしては唯一、参加を予定している。www.matchandcompany.com/
レーベル「M」:2005年に「若手でもベテランでもない、いわゆる写真家中間管理職の遊び場」として町口が立ち上げた写真集レーベル。その本質は、著者である写真家だけでなく、製紙会社、印刷会社、そして製本会社といった、1冊の本が生まれて一人の人間に届くまでの過程の中で、そこに携わる人間一人一人がそれぞれの未来へ挑戦できる、「可能性を試す遊び場」でもある。www.bookshop-m.com/


江口宏志:UTRECHT[ユトレヒト]代表:1972年生まれ。通販ビジネスに5年ほど関わった後、2002年にオンライン書店「ユトレヒト」オープンし、代官山にショップを構える。08年には青山にショップ兼ギャラリー「NOW IDeA by UTRECHT」をオープンする。アーティストブックの出版等、本に関わる幅広い活動を行い、09年開催されたインディペンデント出版社を中心としたアートブックフェア「ZINE'S MATE, THE TOKYO ART BOOK FAIR 2009」では共同ディレクターを務めた。
utrecht100:ユトレヒトの出版プロジェクト。小山泰介、浅田政志、HIMAA、伴美里ら、国内の新進アーティストによるZINEフォーマットの作品集をいち早く発行している。2007年よりNY ART BOOKFAIRに毎年出展し、国外へ日本人アーティストの紹介する機能を果たしている。


藤崎圭一郎:デザインジャーナリスト:1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』。法政大学デザイン工学部、桑沢デザイン研究所非常勤講師。ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」。


◎会場の様子


会場全景. 当日は116名と大変多くの方にご参加いただきました。 ここでお礼をさせて頂きます。ありがとうございました。



「牛若丸」の制作背景を、簡潔に紹介してくれた松田氏。牛若丸の本作りは、「楽しい知識」と「バカミス(お馬鹿なミステリー)」という2つの視点に集約されるという。「楽しい知識」とは、知識を読者に「体感させ」てくれる児童書、宇宙や恐竜をテーマにした原寸図鑑などから着想を得ている。という。これらの視点から、「徹底的に本をおもちゃにする」のが牛若丸の本作りだ。出版のペースは年1回。これまでの作品は、台湾語や韓国語へと翻訳され、重版されている書籍もある。造本には凝るが、手に入りやすい価格におさえるための工夫も随所にされている。



自身のセルフパブリッシングの歴史を紹介してくれた町口氏。デザインの産業化に抗い、全身を使ってデザインをしたいと、仲間を集めて会費1万円でミニコミ制作を行ったのが20年前。そのミニコミは横浜のディープな世界に焦点を当て、寿町で開催されていたフリーコンサートを取り上げた。主催者への取材から、執筆、編集、デザインまでトータルに取り組み、たくさんの人と関わった。「自分で動いてものをつくると、新たな人との出会いがある」 その楽しさに気づいたという。その後、抜群の行動力で若手写真家とネットワークを築いて制作した写真集や、写真レーベルMの設立などに至るが、常に人との出会いを大事にし、自身の活動を展開してきた姿が印象的だった。現在は、パリフォトへの出展や、ブックショップMなどのネット販売を通して、世界中をフィールドに活動を展開している。



国内外のインディペンデント・パブリッシャーが集ったTHE TOKYO ART BOOK FAIR「ZINE'S MATE」を成功させた江口氏。合計170の組織や個人の出展があった。Zineや少部数のアートブックの制作者が多く存在することは予想通りであったが、 来場者の多さは想定外だったとのこと。個人の制作する少部数出版も、見せ方を考え工夫すれば、多くの人が興味を持ち、売れていくものなんだと実感したそうだ。また、自身の拠点であるブックショップ「ユトレヒト」では、ギャラリーを併設し、トークショーやイベント、展示、海外のブックフェアへの出展などと絡めながら本の販売を行っている。本を単に書棚に並べるだけでなく、多様な流通のモデルを試行錯誤しながら、作り出そうとしている姿勢が印象的だった。



司会を務めた藤崎氏。各パネリストのプレゼンテーションから様々な論点を抽出し、「デザイナーによるセルフパブリッシング」というテーマを様々な角度から考えさせる質問を投げかけてくれた。自身も、教鞭を執る法政大学で、東京芸術大学と連携して、フリーペーパー「DAGODA」を制作している。



「セルフパブリッシングが志向するミニマムなコミュニケーションと、ネットというコモンズ(共有地)での情報交換の棲み分けはどのようになっていくのか」、「オンデマンドブックのBCCKSの可能性とは」、「協働作業をする仲間の作り方、付き合い方」、「これからのリアル書店の可能性」など、様々な論点でパネリストと来場者の間で意見交換がなされた。




















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