インタビュー|中垣信夫
「ミームデザイン学校のこれまでと, これから」
聞き手:ミームデザイン学校 事務局

「ミームデザイン学校のこれまでと, これから」
聞き手:ミームデザイン学校 事務局

中垣信夫:武蔵野美術大学卒業。ウルム造形大学留学。1964年より杉浦康平デザイン事務所勤務。 73年,中垣デザイン事務所設立。西欧で学んだタイポグラフィーをひとつの指標として,日本文化に根ざしたデザインに活かす道を一貫して追求している。主な仕事に「美術手帖」のアートディレクション,平凡社ライブラリー600冊,美術出版社の[カラー版]シリーズ。代表作には「アメリカを知る事典」「日本美術史事典」「字通」(以上,平凡社)など。 「花鳥風月」(今井俊満,美術出版社)で講談社出版文化賞を受賞。
●開校から3 年目を迎え,これまでに在籍した生徒は80名を超えました。まずはこの2 年間の感想を聞かせて下さい。
中垣:多くの方々のご協力や,生徒と講師達の真剣な取り組みのおかげで,とても内容のある2 年間であったと思います。ただ実際に開校して運営すると,想像以上の努力が必要だとも実感しています。
●どういった部分で努力が必要なのでしょうか。
中垣:人間関係の希薄さや仕事の忙しさ,また限定された業務領域等により,自身の向上や後進の育成にまで手を回せないような環境が実際には多い。しかし現在はデザイナーの役割自体も急速に拡張していて,勉強しなければいけないことも実際にはたくさん増えていっています。私達はそうした問題に対応しながらも独自の特徴を打ち出して,決まった回数と予算を編成しなければなりません。
●他に具体的な部分でありますか?
中垣:ミームデザイン学校は基本的に一度社会経験をした人を対象にしていて,平均年齢も基礎課程が29 歳,専門課程が33 歳と他の教育機関と比較するとやや高い。ですからほとんどの生徒は自分のお金でこの学校に通い,真剣に自分のことを考えています。そうした人たちを響かせながら,引っぱっていくことはとても重責であると考えています。またネットワークのおかげでいつでも欲しい情報が手に入るようになった環境では「教える」という事も難しくなっているのだとも実感しました。というのも皆さんの見つめているものが,各個人でそれぞれ本当に違うようになった。これはとても素晴らしいことであるのと同時にまとまりがつかなくなってしまう1 つの要因です。手軽に情報を手にさせ,近道をして物事の本質を知った気分にさせてしまうような凝り固まった状態を,単純に教壇の前で講義をするだけで解きほぐしていくのは難しい。各個人の興味や視野の間口を広げ,体験を通して,揺さぶっていかなければならないのだと考えます。
●ではそうした過程を踏まえてミームデザイン学校の特徴とはどういう所なのでしょうか?
中垣:ミームデザイン学校は各分野の「英知」といっても過言ではない程の講師陣が集まっています。デザインの現場における第1 線のデザイナー,アートディレクターは勿論のこと,他の教育機関で教えている教育者や,文学者,研究者,ジャーナリスト,企業,プロモーター,アクティビストのような方々まで迎えています。こうした違った分野の方とデザイナーの2者で進行していく授業の形は非常に素晴らしいものでした。1人で授業を進行すると,とかく内容が一つの方向に偏ってしまうことがありますが,違った分野の人と組みながら土台を共有しつつ授業を進行していくとそうもいきません。それぞれの立場から声を掛け合い,デザインをテーマにしていても他の分野にも拡張していく。そして生徒の数も少ないので,双方の講師と,生徒がやりとりして進められる。私はこうした講義は日本のどこへ行っても珍しいのではないかと思います。


●今いわれたように,他分野の専門家がいるなど,それぞれの授業に特徴があると思いますが,ミームデザイン学校全体の特徴,また方針や目的とする形もあるのですか?
中垣:開校当初『デザインに携わりながらも周囲に優れた指導者を得られない,リーダー的立場にありながらもその能力に不安を抱いている,専門教育を受けたがもっと研究を深めたい・・・・このような人達が週末を利用し,最先端のデザイン理念と実技を学習できる教育機関』という言葉を掲げて始まりました。私はこうした最初のキーワードは大事にしたいと思っています。まずはその言葉通り主体である生徒達が,実践的な技術を習得し,総合的な知見も学んでほしい。また私達は正式な学校法人ではありませんし,生徒も社会人が中心ですので,授業も週末に限られています。ですから授業の密度を濃くし,そうした機関ではない特徴を生かして,積極的に動いていかなければならないと思っています。
●その開校当初に掲げていた言葉の中にある「最先端のデザイン理念」とは,どういった事なのでしょうか?
中垣:最先端という言葉があると,どうしても一面的な部分を想像してしまいがちですが,決してそういう訳でもありません。私がデザイナーとして活動してきた50 年間には様々な変化がありました。アナログ的なものからデジタルへと技術が移行していったのも1 つで,そのデジタル化へ移行した当時はそうした技術をもとにしたデザインの発想方法が最先端として優先されました。そして時を経た現在の私達が生きている社会も実はゆるやかに変化している時代とも言えます。例えばMeMe Design Journal 第5 号[1] の勝井三雄さんのインタビューの中で「グローバルとローカル」の問題に触れています。これは数十年も前から潜在的にあった問題が,現代になってネットワークの発達により一段と顕在化しているのだと思います。価値観の世界規格化ともいうべきこの問題は,これからは東京人であれば東京人として,無国籍的な繋がりであれば無国籍的なものとして,世界基準のなにか記号を持たないと世界に所属できないのだということです。そして,デザインやデザインに携わる各個人も姿勢として,社会とどのように関係していくか示していかなければいけないという事なのだと思います。
●そのような現代的な社会変化による問題を痛切に感じておられるようですが,ミームデザイン学校としても,問題意識を感じているということですか?
中垣:ミームデザイン学校は,それぞれの講師や生徒の総体でもあるので単純にそうだとも言えないのですが,少なからず私はあるのだと思います。例えば,私は近年の経済的な理由で,世界が混乱したり,ただただ新しいものを造り変えて消費していく形に違和感を覚えます。勿論そういった手法や評価がただ悪い訳ではないですし,私達の職業も経済活動である以上,数字や効果も無視できないのは解っています。しかしもう少し違った方向で社会が成熟していくことを願っています。また経済というものと相性が悪いがために衰退しはじめている素晴らしい文化もあります。理想としては全てを画一化させず,私達の生活や精神の礎となりえる多様な文化も豊かに生きていくことができる形が実現できればと思います。本来は社会のしくみに私達が合わせるのではなくて,しくみを変化させていくべきです。難しい時代であるからこそ若い人達が,それらの問題を意識して考えてもらいたいと思っています。
●問題意識を持つ運動体として具体的な活動はされていますか?
中垣:通常の授業とは別に開校以前から開催してきた公開講座やシンポジウム[2] は継続しています。2009 年は「デザイナーによるセルフパブリッシング」という公開講座を開催しました。近年こうしたデザイナーによるセルフパブリッシングへの関心が高まっているのだとすると,やはり出版や広告という媒体自体がデザイナーを支えきれなくなっているという見方ができます。これは,増えすぎた制作側にも問題はあるのですが,出版や広告自体も形を変えていかなければならないのだと思います。デザイナー,広告代理店,出版社も一緒になって,この問題は継続的に考えていくべきです。またミームデザイン学校は出版を社会に発信できる手段として視野にいれています。せっかく青山ブックセンターで学校をやっていますし,ミームデザイン学校は書籍を中心としたデザイナーが多いのです。

●そうした活動の具体的な成果はありましたか?
中垣:これまでに公開講座・シンポジウムの参加者は総数で700 名を超えています。そして100 名近くの生徒がミームデザイン学校に在籍したということは,デザインについて様々な情熱や考えをもつ人達が100 人集まったともいえます。これは日本においても珍しいコミュニティの誕生なのではないかと思えるようになったのです。先日,私の知らない所で生徒達が結びつき活動を始めていると伺いました。第一期生の数名で小冊子を発行し始めているそうです。こうした生徒達だけで社会と繋がり,挑戦している姿は非常に逞しく感じます。ミームデザイン学校は受講を終えた生徒とも継続的に繋がり続けていける仕組みを作っていますから私達もそうした働きを見続けることが可能ですし,一緒になって活動することもできるのです。また偶然にも今年,ミームデザイン学校は韓国ソウルにある私達と同じようなデザイン教育機関ACA[3] と連携していく合意ができました。国際的な価値観の交流もこれからは重要になるのだと思いますし,生徒にはこうした仕組みを利用して,どんどん自分たちとは別の価値観に触れてほしい。そうしたことで始めて自分の郷土をみつめながら外へと広がっていけるのだと思います。ミームデザイン学校もACA だけではなく日本に数ある中の1 つの点として,他の点と繫がっていければと考えています。
●長くなりましたが,2010 年度の授業について聞かせて下さい。まずいくつかのペアが変わっていたり新しい授業が構成されています。
中垣:やはり生徒の皆さんはデザインが上手くなりたいと考えています。ですから今年度は,全ての授業において昨年以上に実践的な技術と知識が得られる講座を多く取り入れていこうと考えています。また講座で繋がれる部分では連続して進めていけるのではないかとも思っていて,例えば基礎課程の,新たに参加してもらう室賀さんと郡さんの授業と,次の鈴木さんと私の授業が連動していくような形も可能だと考えています。ミームデザイン学校は始まってまだ3 年目ですので,生徒の声を聞きながら,少しずつ変化をつけていったり,よりよい場所にしていくことが大切だと思います。

●最後に,これまでの生徒,また今年度の参加予定の方になにかメッセージはありますか?
中垣:なにしろ楽しんで色々なものを見て吸収して下さい。それが1 番の向上に繋がります。ミームは社会人が多く,授業も回数に限りがあります。ですから翌週までの課題で大変だと思うこともある。それでも,せっかく普段の厳しい業務などから解放されているんですから,授業を休んだりせずに,そうした過程を楽しむ努力をして下さい。そして積極的に自分について考える機会になるように意識してほしい。個性的なデザイナーの講師達,またそれぞれの分野のスペシャリスト達としっかりした関係を作り,色々な物や考えに触れて「なるほど」だとか「自分はここは違うな」というように,自分自身を意識するようになる筈です。自分と社会にとって,どういう物や考え方が正しくてしっくりくるのかという理解が進むことが,その後に続く自分のデザインや仕事,また人生においても重要なことなのだと思います。
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1.MeMe Design JournalMeMe2008 の講義の模様は,「ミームデザインジャーナル」という小冊子にまとめられ,デザイン誌『アイデア』(No.330-336)にて1 年間連載された。内容は講師のレクチャーや,実技・講評の様子を丁寧に紹介する「授業レポート」と,生徒が取材・執筆・編集を担った「講師インタビュー」により構成。ミームの現在進行形のプロセスを記録し,その活動を社会へと発信する試みとなった。
2. 公開講座・シンポジウム
開校前より,社会の中でデザインの抱える問題や可能性,また必要とされるデザイン学校の姿について議論する場を,シンポジウム形式で設けてきた。開校後は,公開講座として継続し,これまで「新・ブックデザイン考」,「デザインの可能性を探る」,「動きの設計」,「デザイナーによるセルフパブリッシング」などのテーマで開催。毎回,100 名を越える来場者が集まり,活発な議論を展開している。
3.ACA(Asia Creative Academy)
東アジア圏の文化的アイデンティティーを基盤にしながら,国境やジャンルを越えて活動できるクリエイターの養成を目指し,2009 年秋,韓国・ソウルに開設。東アジアの文化的ハブ(結節点)として,韓国,日本,中国の第一線で活躍するデザイナーやアーティスト等,100 名を超えるクリエイターを講師として招聘している。ミームの講師でもある,勝井,鈴木,中垣,松田,山口も講師として参加。
MeMe Design School 2011