12専門課程「編集者・二宮隆洋がつくった本──1980-90年代の日本のブックデザイン」レポート



講師がいま話したい〈デザインの問題〉をテーマにする、専門課程「デザインの問題について話そう」。鈴木一誌さんをお迎えして9/29に開催されたこの講座では、鈴木さんが80-90年代にかけてお仕事をともにしてきた元平凡社の名編集者、二宮隆洋さんについて、縁の方々にお話しいただきました。
二宮さんは『西洋思想大事典』『中世思想原典集成』「ヒストリー・オブ・アイディアズ」「ヴァールブルク・コレクション」をはじめとする特色ある人文書を数多く手がけましたが、今年春に逝去されました。この日は、二宮さんがご自身の企画の欠くべからざるパートナーとしてきた、デザイナーの鈴木さん、戸田ツトムさん、詩人の中村鐵太郎さんによって、二宮さんの残した仕事を2012年の現在から照射するとともに、20世紀末の日本のブックデザインを再考する機会となりました。

日時|2012年9月29日(土)12:30-15:30
会場|青山ブックスクール小教室
講師|鈴木一誌  >>> 講師プロフィール
特別講師|戸田ツトム、中村鐵太郎



◎講座開催にあたって(記・鈴木一誌さん)
編集者・二宮隆洋(1951-2012)さんのしごとについてお話しします。二宮さんは、平凡社在籍中(1976−1999)に、『中世思想原典集成』「クリテリオン叢書」「ヴァールブルク・コレクション」『西洋思想大事典』など、およそ200点の人文書を公刊し、フリーになってからも約100点もの書物を世に送りだした、〈編集者魂〉を身をもって実践した人物でした。今年、惜しくも病没されました。
 今回は、彼の平凡社在籍中の仕事に焦点を当て、編集者とブックデザイナーの協働関係を考察します。二宮さんが手がけた書物の多くは、西洋思想史にかかわる翻訳書ですが、具現化されたそれら書物群で特記すべきは、読む者のイメージを生き生きと呼び起こす点です。図像学に関連した本ばかりではなく、文字だけのページからも、イメージが立ちのぼってきます。二宮さんは、人間と事物とがイメージを介して相互干渉する場に身を置き、西洋思想史の見えざる水脈を開示しようとしたのではないでしょうか。みずからが編む膨大な書物の編み目=グリッドによって、〈見えない学校〉をつくり出そうとした、とも言えそうです。あらたな〈百科全書〉の試みです。
 平凡社在籍中の二宮さんの本の多くのブックデザインが、杉浦康平、中垣信夫、戸田ツトムそしてわたしの4人に委ねられています。なぜ、この4人だったのか。二宮さんが手がけた本を、実際に触っていただきながら、編集とブックデザインが激烈に交錯した1980─90年代の日本のブックデザインを考えます。
「1990年代の出版は二宮隆洋の時代」とも言われます。ゲストに戸田ツトムさんを迎え、さらに、二宮さんと編集作業を長くともにした詩人・中村鐵太郎さんにもおいで願いました。中垣さんにもお話しいただきます。デザインにおいて「神は細部に宿りたまう」事態の解析にご期待ください。





講座では、二宮さんが手がけた本の実物(その多くは絶版となっています)を前に、講師のみなさんと当校代表の中垣信夫が、二宮さんとの協働の過程でのエピソードをお話しくださいました。




『西洋思想大事典』「ヒストリー・オブ・アイディアズ」シリーズほかを手がけた鈴木さん。ほとんどが翻訳書である二宮さんの仕事は、神秘思想やオカルティズムといった周縁的・異端的なものが、西洋文化の根幹に横たわっていることに光をあてようとしたものだとします。さらに、そうした異端的なものをヴィジュアルなものを通して表現しようとしたとも。〈異端のヴィジュアル〉を具現化するにあたってデザイナーたちが深く関与していった経緯を、デザインを取り巻く当時の状況との連関のうちに振り返りました。

詩人の中村鐵太郎さんは、編集・校正作業におけるパートナーとして、15年以上にわたって二宮さんの仕事を支えてきました。二宮さんの特異な業績を生み出した環境として、当時の平凡社について語ってくださったほか、二宮さんに影響を与えた「精神史──一つの方法序説」(林達夫)のさわりを紹介し、二宮さんの仕事に通底する、イコノロジー的分析を基にする歴史把握の手法についてお話しくださいました。




「ヴァールブルク・コレクション」『驚異の部屋』『シュレーバー回想録』ほか、最も多くの本にかかわった戸田ツトムさん。戸田さんがブックデザインを手がけたきっかけから、次第に深く取り組むようになった道程のすべてに、二宮さんの存在があったことを明かしてくださいました。その後、二宮さんとともにつくった100点以上の本のカヴァーデザインをスライドで上映しながら、戸田さんがカヴァーヴィジュアルを定着させるまでの思考のプロセスを解き明かしていきます。

「エラノス叢書」『中世思想原典集成』などを手がけた中垣は、二宮さんの仕事が、過去を現在に伝え、現在を次に伝えようとする、時間を超える編集であったと振り返り、そのような仕事をする編集者が若い世代から生まれてほしいとのメッセージを送りました。




二宮さんが編集した本を実際に手に取る、受講生の皆さん。どれを取り上げても、編集者とデザイナーそれぞれの方法と思考がぶつかり合って生まれた濃密さが強烈に立ちのぼります。 DTPが普及し、出版物の制作プロセスにおいて合理性が第一義とされる時代が到来する一歩手前、80年代半ばから90年代にかけて出版されたこれらの本。時代が移り変わるなか、本と呼ばれるメディアが失いつつあるのは何なのか、守られるべきは何なのか......大きな問いを投げかけて講義は終了しました。




















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