公開シンポジウムレポート
デザインの可能性を探る
…第2回ミームデザイン学校設立のためのプレスクール&シンポジウム
講師| カスパー・シュワーベ, 祖父江慎
日時| 2007年4月15日
会場| 東京国際フォーラム
※ シンポジウムの様子はDTPワールド 6月号STUDIO VOICE 6月号にも掲載されています.



「DTPWORLD」2007年6月号掲載 写真:大沼洋平(弘田充写真事務所) 


1. ごあいさつ
 第2回ミームデザイン学校設立のためのシンポジウム&プレスクール「デザインの可能性を探る」にご参加下さった多数の方々, ありがとうございました. 参加者も138人と本当にたくさんの人々にいらして頂いた事を, 私も大変うれしく思います. また参加者の中には若い方達に混じって, 日本デザイン界の論客たちの姿も多く見受けられた事も私にとって心強いものに感じました.

 さて皆様は第2回「デザインの可能性を探る」の講義はいかがでしたでしょうか?第一回のシンポジウムと打って変わり, 突然の講義に多少唐突さを感じた方も中にはいらしたのではないでしょうか?アンケートにも少数ながらその様な意見を目にしました.

 私は今回のシンポジウムにおいては, 最近のグラフィックデザイン界における表層だけを円環状に撫ぜ廻すレイアウトの話や, 経済的, 社会的なグラフィックデザインの格差についての話はすべきではないという気持ちでした. もっと大きな事, 驚きの感情であったり, 発見による喜びであったりと, 「本当にデザインをしていく上で大切なもの」を見せたい気持ちでありました. 当然ながらグラフィックデザインにおいては美しいレイアウト, 美しい文字組などが必要である事はいう迄もありませんし, 経済的, 社会的なグラフィックデザイン界の格差も是正する必要があるのかもしれません. そして純粋なデザインだけを勉強しても応用できない社会になってしまったのかもしれません.

 しかしながらモニターの前で, 文字を右へ左へ移動し毎日半ばルーティンと化したデザイン業務の中で, 本当に私達のグラフィックデザインが前進するような躍進的なアイデアが生まれるでしょうか?参加者の皆様は, そのような状況に陥ることなく, 喜びと希望に満ちた, やりがいのある仕事をしたいと思い, 「デザインの可能性を探る」に何かを求めて来られたのではないでしょうか.

 著名な講師陣の元で, 何か明日から使えるような便利な方策を授かれるのではないかと期待している方々にとっては, 意図が分かりにくいものであったかもしれません. 前回のシンポジウムでは「アイデアの引き出しをどうやって作ったらよいのか?」という質問が多くありました. まさにその答えが今回のシンポジウムの中にあったのです.

 祖父江さんの一見奇妙奇天烈なアイデアは, 何か秘伝の書のようなものを参照しているわけではもちろんなく, 普段から誰も気づかないような「文字の不思議」に気がつき, その知的探究心の赴くままに掘り下げられていった知識の集積の中から立ち上がったものです. この日も, 「カタカナの不思議」の探求の中で生まれた, 美しい装丁の書籍を紹介されています.

 自らの作品を「移動する彫刻」と称するシュワーベ氏. 一見平面の幾何学模型は, 支点を軽やかに変えながら, あれよあれよという間に多様な多面体へと変換してゆきます. 「完全な球体は存在せず, 常に視点は複数ある」という大変示唆的なお話をされました. 表面上の構造にとらわれず, 常に流動の可能性を見いだすことで, 新しい発見が生まれ, 脳が活性化されます. 自分は平面のデザイナーだからといって, 平面図形だけを凝視しているのではなにも見えません. 人間は動物ですから, 五感をフル稼動していなければ, 生物本来の健常な感覚が衰え, 新しいものに敏感に反応し, 1を見て10を発見するようなことはできません.

 またデザイナーが作ったものを最終的に受け取る消費者たちは, 平面図形だけを見て暮らしているわけではなく, 多次元の世界の中で, そのほんの一部として, グラフィックデザインにふれるのです. その一瞬で私たちは彼らの五感を揺さぶらなければならないのです.  「ミームデザイン学校でなにを学びたいか」という質問に対し「基礎的な知識と発見」と答えてくださった参加者がいらっしゃいました. 講師として今回両氏をお招きした主旨を, この方は理解共感されているようで嬉しく思います.

 基礎的な知識とは, 非常に単純に言ってしまえば「言葉」のようなものです. いくら大胆で革新的なアイデアがあったとしても, それを他人と共有する道具がなくしては, 大きな仕事として実現できませんし, 後世へ伝えてゆくことも難しいのです. また, 言葉を習得しなければ, 先達の偉大な知恵を自分の血肉とすることもできないのです. アーティストであれば, 自己完結していながらも, 素晴らしい作品を残すことができるかもしれませんが, デザイナーは非常に社会的な職業です. たくさんの人たちと関わりながら成果を出さねばなりません. そしてもっと外にむけて自分の窓を開き, パソコンや多くのメディアから離れた所に思想や可能性の原点が未だに多く眠っていることを皆さんに気づいてもらいたかったのです.

 私はこれらの驚きや発見はデザインにとって最も大切な精神であり, どんな時代においても皆さんの不安に対抗する大きな力に成り得ると信じていますし, 若い皆さんが社会の進歩とともにグラフィックデザインを本当の意味で前進させてくれると信じています. 長くなりましたが第三回のシンポジウム&プレスクールをご期待下さい.
……中垣信夫
2. 講師陣のご紹介
カスパー=シュワーベ氏 
1953年 9月1日生まれ(52歳) スイス チューリッヒ出身. シュタイナー学校で学んだ後, 独学で科学, 芸術, デザインを修める. 科学博覧会のアートディレクターとして国際的な活動を展開するデザインサイエンスの研究者. 2002年から03年まで神戸芸術工科大学特任教授. 2004年からは倉敷芸術科学大学教授. 1984年フェノメナ展, 91年オレイカ展をはじめ, 科学博覧会のアートディレクターとして国際的に活躍. 神戸芸術工科大学講師, 倉敷芸術科学大学教授. 日本在住.

150人を超える申し込みの事前アンケートでは, ほとんどの方が知らない, または名前だけは聞いたことがあるという程であったシュワーベ氏. 冒頭にシュワーベ氏が発言した「三角形, 四角形などの多くの形は実際, 高次元の創作における2次元, 3次元の影である」という概念は端的には難解に聞こえるが, グラフィックデザインのみならず建築やコンピューターグラフィックにおける3Dモデリングなどにも有用な概念である. またシュワーベ氏はヨーロッパなど, 多くの科学博覧会などもプロデュースするなど活躍している.


祖父江 慎 氏 
シュワーベ氏に対して事前アンケートでは100%に近い答えで皆さんが知っていた祖父江氏. 祖父江氏に関して多くの補足はいらないが, 2005年末にgggで行われた祖父江慎+Cozfish展などは, まだ記憶に新しい. また当日は独特の雰囲気で会場を笑わせるなど和やかな空気の中行われた. 開催後のアンケートを集計してみると祖父江氏の独自の視点からの研究の熱心さに感動した方が多くいた.

3. シンポジウムの様子

会場全景. 当日は138人と大変多くの参加者にきて頂きました. ミームデザイン学校設立準備室共々ここでお礼させて頂きます. ありがとうございました.


冒頭にデザイナーの杉浦康平氏からシュワーベ氏に関しての説明とジオメトリックアートについての補足がありました.


シュワーベ氏の手前にある箱から様々な不思議な道具が飛び出した.


幾何学を元にしたシュワーベ氏の道具. その幾何学の点や線, そして面に動きがつくことで様々な形に変化していった.


続いて祖父江氏による「ニッポン文字のフシギな形」が始る. 一見カタカナで「カニ ハエノオト」と読めるが(写真中央)実際は漢字や漢字の部首の一部分を使って作られたモノ. このように祖父江氏のユニークな視点によるカタカナついての考察が続いた.


明治時代の文献などを見ながらカタカナの変遷を見ていく. 普段皆さんが注意深く使っている文字だが, 祖父江氏の観点はユニークで誰もが見過ごしがちな盲点を突いていた. みなさんも, 古本屋さんで「尋常小学校」の教科書を見つけたら, 是非文字の不思議を見つけていただきたい.
4. シンポジウムで取り上げた書籍のご紹介
カスパー=シュワーベ 氏
ジオメトリック・アート“Geometric Art”神戸芸術工科大学レクチャーシリーズ
カスパー シュワーベ (著), 石黒 敦彦 (著), Caspar Schwabe (原著), 土肥 博至, 杉浦 康平 
工作舎 価格:¥ 4, 095 (税込)

数々の科学博を手掛けたアートディレクター, カスパー・シュワーベ. 自ら幾何学モデルを制作しつつ, 対称性(シンメトリー), 空間を分割するデザイン(スペースパッキング), 組む・結ぶデザイン(コネクション), 動きのデザイン(キネマティックス)など, 美しく不思議な「かたち」の数々. ここで紹介された作品は, 初の著書『ジオメトリック・アート』に収録. 杉浦康平による造本も魅力的なオブジェブックです.


祖父江 慎 氏
オクターヴ (文庫)
著:田口 ランディ 装丁:祖父江 慎 価格:¥ 546(税込)

講義の中で延々と語られるカタカナの不思議. 「これがどうやって実務に結びつくのか???」と誰もが途方に暮れた頃, 「そして, あまりに古い書体が美しいので, こんなところに使っちゃいました!」と紹介されたのがこの書籍. 一同いろいろな意味で嘆息.




他, 中垣デザイン事務所装丁の書籍は弊社ウェブサイトをにてご参照ください.
中垣デザイン事務所ウェブサイト「作品紹介」へ
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